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五百部裕(椙山女学園大)


「他種とのかかわり:共存、混群、雑種形成」

生物は、同種他個体とさまざまなかかわりを持ちながら日常生活をおくっている。と同時に彼らは、何らかの形で異種ともかかわりを持ちながら生活している。こうした異種とのかかわりは、当然のことながら霊長類にも見られる。そして、霊長類同士の異種間にもさまざまな形のかかわりが認められる。このように考えると、生物社会や生物個体が日常的に何らかのかかわりを持つ仲間という問題を考えていく上では、同種他個体とのかかわりだけでなく、異種とのかかわりを考えることも重要なのではないだろうか。そこで本発表では、霊長類同士の異種間に見られるさまざまなかかわりを検討することで、社会や仲間の捉え方を考え直してみたい。




山極寿一(京都大)


「霊長類の環境認知と社会性:種内変異と種間変異の比較から」

環境をその種の個体がどう認知しているかによって、社会性は大きく異なる。また、社会性の違いによって環境の認知は異なってくる。その変異の幅は各種霊長類の進化の歴史を反映しており、分類群や生息環境によって違うと考えられる。ニホンザル、ヒヒ、ゴリラが、それぞれの環境特性に応じて進化させた生態的特徴と社会特徴の変異を、認知と特徴間の相互作用といった観点から検討する。




菅原和孝(京都大)


「間身体性と身体配列 - グイ・ブッシュマンの民族誌から - 」




中村克樹(国立精神・神経センター)


「コミュニケーション機能と動作」

 脳機能画像データなどから、言語を含めたコミュニケーション機能と動作の関係を考察する。




倉岡康治(京都大)、中村克樹(国立精神・神経センター)


「社会的情報の認知に関わる神経機構」

 社会の中で生きていくためには、互いに社会的情報のやりとりを図ることが重要である。特に霊長類は、社会的情報として、四肢や顔の動作を用いる。今回の発表では、表情認知・視線検出・動作の理解に関わる神経科学的研究について概観し、社会的情報の認知に関わる神経機構について考察する。これら3つは、非言語コミュニケーションにおける重要な機能である。こうした機能には、サルとヒトにおいて類似した脳領域が働いており、扁桃核・上側頭溝・頭頂連合野や下前頭皮質の関与が示唆される。




神代真里、石橋英俊(東京医科歯科大)


「サルの視線・指さしと模倣の産出」

対人関係など社会環境への適応に必須と思われる対面式コミュニケーションの重要性を検討する。サルを対象に、ヒトとコミュニケーションを行う手段となりうる視線と指さしを教えたところ、サルはヒトの見るもの触るものに関心をもち、また、手の届かない位置にある対象への関心を指さしで示したり、模倣を通して他者とコミュニケーションを図るなど、サルからヒトへの積極的な働きかけがあることも分かった。このように、視線と指さしの使用は、他者への認識の高まり、そして、他者と共有する経験を増やす、というようなヒトとの社会環境に適応する足掛かりとなることが示唆された。また、脳の運動前野における損傷実験では、コミュニケーションによって障害行動が緩和される可能性を見いだした。




坊農真弓(神戸大学大学院/ATR-MIS)


「会話における参与構造の分析」

 多人数によって組織される会話には、常に一人の話し手と二人以上の聞き手(Listener)が存在
する。この二人以上の聞き手の立場は、同等ではない場合がありえる。Clark(1996)は聞き手を更に、聞き手(Addressee)と傍参与者(Side participant)に分け、分析を行っている。参与構造は、
話し手、聞き手、傍参与者という参与者によって構築され、会話の進行に応じて動的に遷移する。本発表では、話し手の発話と視線の振る舞いの協調関係が、参与構造の遷移にどのように関わる可能性があるかについて、データ分析を通じ検討する。




山本慎也(産業技術総合研究所)


「道具の先端の知覚」

道具で物を触るとき、我々は道具を持っている手そのものというよりも「道具の先端」で感じがちである。例えば、ボートの漕手はオールで水をつかむ感覚を、オールを握る手というよりもむしろ視界の外にあって見えないはずのオールの先にありありと感じるという。これまで古くから、哲学や神経科学の文献にこのような主観的な体験の記載はみられたが、それを裏付ける客観的な証拠は無かった。今回、『手に持った棒を交差すると、棒の先に与えられた機械刺激の主観的な時間順序が逆転する』という最近我々が発見した現象を紹介し、『道具を持つ手ではなく、道具の先端で感じる』ことの客観的な証拠を提示する。

Yamamoto, S. & Kitazawa, S.: Reversal of subjective temporal order due to arm crossing. Nat. Neurosci. 4, 759-765, 2001.
Yamamoto, S. & Kitazawa, S.: Sensation at the tips of invisible tools.Nat. Neurosci. 4, 979-980, 2001
山本慎也、北澤茂: 道具の先端における知覚 脳の科学, 24(1), 67-69, 2002




積山薫(はこだて未来大)


「左右反転視野への適応からみた視覚―運動系の可塑性」

視覚入力の左右を反転させると、視覚―運動協応のさまざまな側面が阻害され、空間認知の混乱をきたすが、ヒトもサルも、このような視覚入力の変換に対して、高い柔軟性をもって適応する。サルの第1次視覚野(V1)のある細胞群は、左右反転眼鏡を装着して1ヶ月半ほどで、対側のみならず同側視野の視覚刺激にも応答するようになる。受容野のこのような対側から両側への適応的変化は、視覚―運動系の広範な可塑性の一端を示すものと考えられるが、そのメカニズムは明らかではない。我々は、ヒトを被験者として、この点を探る実験をおこなった。ファンクショナルMRIを用いたV1の受容野測定および他の行動的測定の結果、V1の適応的変化に先行して、体性感覚―視覚連合の再編成が生じていることが見出された。この結果は、V1で出現する同側視野への応答が、体性感覚―視覚連合に関与する部位からのフィードバック入力を介したものであることを示唆する。




杉田陽一(産業技術総合研究所)


「色の獲得」

生後間もないサルを単波長の光照明下で1年間育てた。これらのサルは、長い訓練の後、色の見本合わせ課題を遂行できるようになった。しかし、色の類似性判断を行わせると、ヒトや正常に育てたサルと比べて、大きく異なった結果が得られた。また、色の判断が光の波長成分によって大きく変化し、「色の恒常性」が失われていることも明らかになった。