シンガポール、ナイトサファリにおける動物の展示・飼育手法

親川千紗子、桧垣小百合、熊崎清則、上野吉一

京都大学霊長研究所

シンガポール動物園と隣接するナイトサファリは、世界初の"夜に見る"野生動物園である。1994年に、4年間の構想と3年間の建設期間を経て開園した。1980年代後半にシンガポール動物園で行われた"ナイトツアー"が大反響を呼び、「健全な夜のエンターテイメントを」と言う要求がこのナイトサファリ開園のきっかけとなった。40haもある深い二次林を最大限に利用した動物園で、観客は夜の熱帯林の中で100種1000個体以上の夜行性動物を見て周るという独特の体験ができる。熱帯動物のほとんどが日没後に活動が活発になる夜行性動物であるため、夜間に動物を展示する方法は理想的といえる。
 シンガポール動物園と同様に"Open Zoo"をコンセプトに掲げ、水堀、空堀そして電柵を巧みに組み合わせた、動物と観客の間に何の隔たりも無いようにみせる展示方法を用いている。これは精神的拘束といい、動物の行動や生態、特性を詳しく調査し、それを利用することで逃げることも可能な柵を、あえて越えさせないという方法である。この方法を用いることで展示場が森の中に溶け込み、動物がまるで野生下にいるような感覚を引き起こすのである。園内を周る方法として歩いて周る方法と、トラムに乗って周る方法の二通りがある。トラムコースの中には、大型草食動物がトラムの近くまで寄ってくる場所もある。餌をトラムコース付近で与えて動物が客によく見えるようにし、しかしトラムにはある程度近づかないよう訓練をおこなっていると言う。ここナイトサファリでは展示動物が刺激のある生活を送れるよう、他種との混合展示や給餌の方法などさまざまな工夫が施されていた。ナイトサファリで実施されている展示方法は動物福祉の観点から見ても、野生動物の姿ばかりでなく行動も"見せる"動物園としての役割という観点からも評価できる展示方法だったと言える。
今回の調査では、夜の展示以外にも飼育スタッフの案内の下、昼間にナイトサファリの様子も見ることが出来た。本発表では、夜には見ることのできない詳しい動物の展示方法や、飼育の方法を中心に、ナイトサファリの表(夜)と裏(昼間)を報告する。

親川 千紗子
京都大学霊長研究所
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