色弱チンパンジーの網膜応答

三上章允、斎藤慈子、伊藤真一、小川尚、寺尾健一、小池智、大西暁士、竹中修、
寺本研、鵜殿俊史、江見美子、小林久雄、

京都大・霊長研
東京大・総合文化
熊本大・医
東京都神経研・微生物
京都大・理
三和化学研・熊本霊長類パーク、

 色覚異常は、日本人男性では約5%の割合で存在する。一方最近の我々の調査(第24回日本神経科学大会で発表)は、マカカ属のオスザルにおける色覚異常の出現頻度が0.4%ときわめて低いことを示した。そこで、進化の時間スケールでヒトにより近い類人猿の色覚異常個体を検索した。301頭の類人猿(チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータン、テナガザル)の視物質遺伝子を調べた結果、三和化学研究所熊本霊長類パークの1頭のチンパンジー(ラッキー)で色覚異常を示す配列が見つかった。同パークのアルクも色覚異常の可能性が考えられた。正常個体2頭を含め計4頭で、ERGフリッカーフォトメトリーにより網膜の緑色および赤色光に対する相対感度を測定した。その結果、ラッキーは赤の感度は緑の4分の1と著しく低く、網膜応答でも色覚異常を確認した。一方、アルクは正常個体と同じ応答を示した。これらの結果は、チンパンジーの中に確かに色覚異常個体がおり、その網膜応答はサルやヒトの色覚異常と相同であることを示した。

三上章允
京都大学霊長類研究所
行動神経研究部門教授
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