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事業報告事業番号:24-007 霊長類捕食者としての中大型食肉目の行動生態学的研究 報告者: 仲澤 伸子 期間: 2012/5/30 - 2012/11/9 霊長類の社会や行動の進化を考える上で、捕食圧が大きな要因の1つとなっていることはこれまでに数多く指摘されている。とくに初期人類の進化過程では、比較的大型の食肉目による捕食圧が重要な選択圧となった可能性が大きい。Boesh(2009)は西アフリカ・タイ国立公園での例を元に、ヒョウによる捕食圧がチンパンジーの社会構造に与える影響について議論しているが、その中では東アフリカ各地のチンパンジーがほとんど捕食圧にさらされていないと想定しているなど、その問題点も指摘されている。東アフリカのチンパンジーもヒョウと同所的に生息しており、少なくとも潜在的捕食圧はあるものと考えられるが、これまでそれが定量的な形で示された事はない。一方、ライオンやヒョウに関する研究は南アフリカやタンザニアで数多く行われているが、それらはほとんど大型類人猿の存在しないサヴァンナ地帯でのものであり、大型類人猿が直面している捕食圧と関連付けて議論する事は困難である。そこで本研究では、チンパンジーの長期研究が継続されており、詳細な情報が蓄積されているタンザニアのウガラとマハレにおいて、これまで全く詳細な研究が行われてこなかった中大型食肉目を対象に、その生態及び行動の特性を明らかにすることを目的とした。とくに、これらの食肉目が類人猿をはじめとする霊長類の潜在的捕食者となっているという視点からチンパンジーを取り巻く環境を見つめ、初期人類の生活や古環境の復元を目指す。 マハレ山塊国立公園ではランダム・サンプリングをおこない、ヒョウの糞の収集および糞と足跡の位置をGPSで記録した。ヒョウは獲物をよく咀嚼せずに飲み込むため、糞の中からは大量の骨、毛、外皮膚等が見つかる。この内容物からヒョウの食性を調べた。収集した糞は乾燥重量を測定した。日本に持ち帰った糞のサンプルは、今後、その内容物の同定を進めていく予定である。また、新しい糞が見つかった場所やヒョウの目撃情報が多い場所に、カメラトラップ8台をセットした。夜間におこなった調査では、姿は視認できなかったが鳴き声からおおまかな位置を推測し、その移動ルートを記録した。ウガラでも同様の調査を行おこなったが、痕跡の収集対象をヒョウ、ライオン、ハイエナ、リカオンとした。この4種の中ではヒョウの糞が一番多かったが、糞の内容物はマハレとは大きく異なっているようであった。これらのデータは、今後より詳細に分析していく予定である。
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