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事業報告

事業番号:22-001

テングザル全雄群の社会・生態研究

報告者:松田 一希

期間:2010/06/09 - 2010/09/03

テングザルは,霊長類の中でも最も複雑な社会構造の1つである重層化社会が示唆されている種である.本種の群の基本単位である単雄群の生態・社会に関する研究を,申請者は平成17年1月よりマレーシア・サバ州のスカウ村近辺の川辺林で行ってきた.申請者の先の研究から,川辺林に生息するテングザル単雄群の基礎的な生態は明らかになりつつあるものの,若いオスから形成される全雄群に関する知見はほとんど得られていない.野生テングザルの単雄群では,群雄の交代時において子殺しが見られないなどといった,ユニークな行動が観察されており,本種の複雑な社会構造を理解するため,全雄群の果たす役割を解明することには大きな意義がある.そこで,全雄群の基礎的な生態・社会を明らかにするためにボルネオ島において野外調査を行う必要があった.

申請者は,2010年6月〜9月にマレーシアへ渡航し研究活動を行った.共同研究を行っている,サバ大学と野生生物局を訪問して,今後の研究についての打ち合わせを行った後に,スカウ村で野外調査を行った.調査地としているマナングル川流域に生息する全雄群についての基礎的な情報を収集するために,朝夕にボートによるセンサスを重点的に行い,群れの構成,群れ個体の識別を行った.調査地には,合計で2つの全雄群が生息しており,それぞれオトナ・オスとワカオス15−20個体で構成されていた.人付けが不完全なために,群れの終日追跡は行えなかったが,断続的な追跡調査から2つの全雄群にはそれぞれ核となる遊動域があるようである.また,本研究中には,複雄複雌群も観察した.テングザルの基本的な社会は,単雄群と全雄群からなることが先の研究から確かめられているが,何らかの要因により複雄複雌群を形成し得ることは興味深い.また,稀ではあるが,単独で生活するオトナ・オスも確認した.今回の調査においては,全雄群,単独雄に加えて,調査地に生息する全ての単雄群の識別もほぼ完了した.これら識別をした群れを今後も長期でモニタリングすることで,単雄群のオス交代のメカニズム,子殺し行動が発動しにくいメカニズム,ひいては重層化社会の本質が明らかになるだろう.これらの行動観察の他にも,テングザルの糞サンプルの収集を行った.加えて,サバ大学の学部生の卒業論文の指導のために,コタ・キナバルにある動物園を訪問しデータ収集方法などを議論した.


全雄群内のオトナオス


全雄群内のコドモ

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