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事業報告

事業番号:21-010

野生動物の福祉に関する行動学的研究

報告者:森村 成樹

期間:2009/09/05 - 2009/11/29

飼育下での福祉と生息地での共存は、いずれもが動物と人間双方の調整のうえに成り立つ。生息地での共生において人間が動物に対してどのような配慮を形成するかを明らかにすることは、飼育下の野生動物の福祉的配慮のモデルとなる。ギニア共和国のボッソウ村では研究者が保全を始める前からその文化・習慣において自然環境とそこに生息する野生動物を守ってきた。本研究では、長期間にわたり住居や畑など人間の生活空間と野生動物の生息域が重複しているボッソウ村において、共存のための調整行動が人間と動物の双方でどのようになされているかについて行動学的な観点から調査した。調査対象地域での主な野生動物であるチンパンジーを対象に個体追跡による観察から1日の活動を明らかにした。一方、住民に対しては聞き取り調査をおこない、動物と人間の間にある問題とその調整について記録した。

行動調査では、個体識別ができているチンパンジー13個体の追跡を終日おこない、個体名、位置、集団の大きさなどを記録した。特に、人間活動域である道路の横断、畑内の移動などについて詳細に記録した。一方、村人の行動や動物に対する意識を調べるために、聞き取り調査をおこなった。特に、動物が民家近辺に滞在し村人が集まる場面などでは双方の行動を詳細に記録した。予備分析から、チンパンジーは畑や道路の脇など人間と接する可能性のある空間で多くの時間を過ごしていたが、村人の近接のほとんどを無視した。妊娠している雌や老齢の個体では村人を避けるような傾向が見られた。また、村人の近接を避ける個体がいた場合にα雄とされた個体が進行方向を変えて引き返す事例も観察された。村人は、チンパンジーの近接に対して多くの場合容認する姿勢をとった。しかし、強引に近くを通り過ぎたり、周囲で騒ぎ立てることも希に見られた。以上から、動物と人間の双方で互いの存在を容認する行動が共存に寄与していると考えられた。さらに詳細な分析を進める。







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