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事業報告

事業番号:21-001

テングザルの社会・生態研究 −全雄群に着目して−

報告者:松田 一希

期間:2009/08/16 - 2009/12/15

ボルネオ島の固有種であるテングザルは、霊長類の中でも珍しい重層社会という複雑な社会構造が示唆されている種である。本種の群の基本単位である単雄群の生態・社会に関する研究を,申請者は平成17年1月よりスカウ村近辺の川辺林で行ってきた.この研究は,サバ大学がマングローブ林で行っているテングザルの生態・社会の研究と比較することで,生息環境が本種の社会進化に与える影響を探ることが目的であった.申請者の先の研究から,川辺林に生息するテングザル単雄群の基礎的な生態は明らかになりつつあるものの,若いオスだけから形成される全雄群に関する知見はほとんど得られておらず,マングローブ林のそれとは比較可能なレベルにない.全雄群は,単雄群に比べるとその群密度は低いものの,テングザルの複雑な社会構造を理解する上でも,重要な存在である.そこで本研究では,全雄群の基礎的な生態・社会を明らかにするためにボルネオ島において野外調査を行った。

申請者は、2009年8月〜12月にマレーシアへ渡航し研究活動を行った。共同研究を行っている、サバ大学を訪問して今後の研究についての打ち合わせを行った後に、スカウ村で野外調査を行った。調査地としているマナングル川流域に生息する全雄群についての基礎的な情報を収集するために、朝夕にボートによるセンサスを重点的に行った。これは、日中は林内で過ごすテングザルも、夕刻になると川岸に戻り川沿いの木で眠るという習性を利用したものである。このセンサスにより、調査地内に全雄群を2群確認した。調査対象としたのは、比較的成熟したオス3頭を含む群れで、この全雄群を人付けするための追跡もセンサスと並行して行った。全雄群は単雄群に比べると警戒心が強く、容易には終日追跡は行えなかった。連続した観察を行うためには、さらなる人付けの努力が必要だが、少なくとも群が川沿いにいる時間帯には、個体間の社会交渉を観察することができた。また、全雄群と単雄群の敵対交渉を観察することができた。今まで、全雄群と単雄群の関係は比較的平和的と考えられてきたが、この観察では全雄群のオス個体が、連携して単雄群のオスを攻撃して追い払うことがあるという事実を確認した。この他にも、サバ大学と進めているテングザルの遺伝的多様性を解明するための共同研究を推し進めるために、テングザルの糞サンプルの収集も行った。


調査対象とした全雄群内のオトナオス


調査対象とした全雄群内のワカオス

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