事業報告

事業番号:20-044

地面優位性に関する生態学的説明-地上性霊長類と樹上性霊長類の比較

報告者:酒井 歩

期間:2008/05/08 - 2008/05/16

平成20年5月9日から14日にかけてアメリカ合衆国フロリダ州ネイプルスで開催された国際視覚学会第8回大会にて、”Ecological account for ground dominance: comparisons between terrestrial and arboreal primates”というタイトルで研究発表を行った。様々な分野の研究者を迎え、活発な議論を行った。発表要旨邦訳は以下の通り。

最近の研究によりヒト3次元知覚における地面優位性が示されている(e.g., Bian et al., 2005, 2006; McCarley & He, 2000)。このヒトの特性は、ヒトが地上性の強い動物であることと密接に関係していると考えられる。本研究では、テクスチャ勾配からの奥行き知覚に生態学的要因がどのように影響するかを検討した。大きさの恒常性錯視の知覚を、ヒト、同じく地上性のヒヒ、樹上性の新世界ザルで比較した。課題は、赤の円(見本刺激)を2つの大きさのカテゴリに分類することであった。実験1では、「地面」あるいは「天井」を表現するテクスチャ背景上に見本刺激が呈示された。ヒトはテクスチャ勾配から強力な大きさの恒常性錯視を知覚し、錯視量は地面の文脈でより大きかった。ヒヒも地面優位性を示したが、ヒトほど頑健ではなかった。一方、新世界ザルも大きさの恒常性錯視を知覚したものの、地面優位性はみられなかった。これらの結果は、霊長類は大きさの恒常性システムとテクスチャ勾配からの奥行き知覚を共有しているが、地上性の霊長類のみが地面優位性を獲得してきたことを示唆している。さらに、ヒト視覚系は床や舗装された道路などの均質な平面にさらされてきたことによって、よりテクスチャのある面の処理における地面優位性をより発達させてきたと考えられる。実験2では、新世界ザルを対象に、「側壁」背景を用いて実験を行った。サルは「側壁」背景において「地面」や「天井」背景よりも強い大きさの恒常性錯視を知覚したことから、3次元場面の知覚方略は地上性と樹上性の霊長類で異なると考えられる。本研究の結果は、生態の差異が視覚環境の差異をもたらし、ヒト、ヒヒ、そして新世界ザルを異なる奥行きの処理方略に導いてきたことを示唆する。


会場のホテル


ポスター発表の様子

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