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事業報告

事業番号:20-002

有袋類の骨格形態における樹上運動適応

報告者:中務 真人

期間:2009/03/16 - 2009/03/25

化石動物の運動適応を明らかにするためには、現生の参照群において、類似した特徴が進化しているかどうかを鍵にするところが大きい。アフリカ中新世類人猿については、現生霊長類の中でぴったりとしたモデルとなる分類群がないことが知られており、独特な運動様式をとっていたと推測されている。これまで唱えられた運動仮説の中で比較的支持されているものに、slow climbing 仮説がある。これは化石類人猿と一部の広鼻猿やロリス類との類似性に基づいているが、一方でこれらのモデルで説明できない骨格特徴も存在する。こうした背景から、参照群としては、これまであまり調べられていない樹上性有袋類の骨格でどの程度多様な樹上運動適応が存在するかを検討する。そのため、有袋類資料を豊富に所蔵するオーストラリア国立博物館へ出張した。

樹上性のカンガルー目(カンガルー科キノボリカンガルー属、コアラ科、クスクス科)と中型地上性カンガルー科の体幹・四肢骨格を比較した。キノボリカンガルーと地上性カンガルー類の違いとして、後肢節の短縮、脛腓不動結合の退化、第五中足骨の伸長・肥大が知られていたが、他に以下のような樹上性霊長類的特徴が認められた:腰椎の椎体長短縮、正中稜の縮小、大結節よりも高い上腕骨頭、橈骨頸の伸長、大転子の退縮、殿筋粗面の張り出し、脛骨上関節面の後傾、脛骨内果と距骨頸のカップ状関節の発達。これらには、ホッピング能力の低下に関係している側面もあるが、多様な四肢運動を必要とする樹上環境への適応に関連する側面がより強いと考えられる。コアラとクスクスは、キノボリカンガルーと異なり、鮮新世以降の地上適応を経ずに進化した樹上運動者として(橈骨長の違いを除けば)比較的類似した四肢骨の骨格特徴を示す。しかし、腸骨や椎骨の特徴において差異が認められ、それは前者における体幹直立傾向の強さと関係している可能性が示唆された。


オーストラリア博物館


シドニー湾から見たシドニー市

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