事業報告

事業番号:19-064

飼育ボノボにおける社会的行動の機能と発達に関する研究

報告者:田代 靖子

期間:2007/12/21 - 2008/01/16

ボノボはチンパンジーと同じPan属に分類され、ヒトに最も近い存在であると言える。その社会や生態は初期人類の進化過程を探るうえで重要な情報をもたらすと考えられるが、チンパンジーに比べると、ボノボの研究は遅れていると言わざるを得ない。そのうえ、ボノボはコンゴ民主共和国だけに分布する種であり、野生で観察できる調査地は限られている。また、野生群を対象とした場合、観察条件の悪さから社会的行動の詳細な記録は難しい場合が多い。今回、調査地として選んだLola ya Bonoboでは、自然植生を利用した広大な放飼場でボノボを群れ飼育しており、野生群に比べると観察条件が良い。2005年以降に施設内で出産された個体を除いて各個体間に血縁関係が無いこと、最年長個体でも20歳代であると推定されていることなど、野生群との相違点はあるが、行動の発達を詳細に記録するには適した場所だと考えられる。ボノボの社会的行動の研究を進めるためには、同施設の個体を対象とした研究が必要であると考えた。

2007年12月から2008年1月にかけて、コンゴ民主共和国キンシャサ市郊外のサンクチュアリ“Lola ya Bonobo”において、ボノボを対象とした社会的行動の調査をおこなった。現地調査期間は約3週間である。
調査期間中、同施設で飼育されていた58頭のボノボのうち、施設生まれのコドモ6頭とその母親を対象としてデータを収集した。ビデオカメラを用いて、対象個体が群れ内の他個体とどのような社会交渉を持つのか、交渉の方向性やパターンに注目して記録した。また、ボノボ特有の行動である性器接触行動について、個体の組み合わせやパターンに関するデータを収集した。
2007年2月におこなった調査と比べるとコドモの活動範囲は母親から遠いところへ広がり、性器接触行動がコドモ側の働きかけで起こる場面が増えているようである。今後、年齢別、個体別の分析をおこなうことによって、ボノボのコドモが社会的行動、特に性器接触行動を発達させる過程と、行動の機能について明らかにしていきたいと考えている。


Lola ya Bonoboの放飼場


親子の遊び


橋を渡るボノボの群れ

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