事業報告

事業番号:19-032

エクアドル共和国における野生クモザルの空間分布と音声コミュニケーションの調査

報告者:下岡 ゆき子

期間:2007/06/15 - 2007/09/18

霊長類の社会における個体の空間分布は、離合集散する群れ、まとまりの良い群れ、単独性、というように分類化して捉えられてきた。近年、これらを離合集散のレベルの違いとして連続的に捉えようと言う考えが海外の研究者から提言されているが、実践された例はない。本研究では、2個体間距離という種間比較可能なパラメータを用いてクモザル社会における個体の空間分布パタンを明らかにすることを目的とする。派遣者は、2005年にニューヨーク大学のAnthony DiFiore博士らと共同研究を行い、エクアドルのティプティニ生物多様性センターに生息する野生クモザル1群の人付け・個体識別を行なった。本研究を遂行する上で、調査環境の整った当地における野外調査が不可欠である。

まず、ニューヨーク大学のAnthony DiFiore氏を訪問し、これまでの研究状況について意見交換すると共に、今後の調査についての打ち合わせを行なった。次にエクアドル・ティプティニ生物多様性センターに赴き、ニューヨーク大学のAndres Link氏と共に野生ケナガクモザルMQ-1群の野外調査を行なった。氏と派遣者がMQ-1群の2個体をそれぞれ個体追跡した。同時にGPSを用いて2秒ごとに観察者の位置を記録し、これを対象個体の位置と近似して、それぞれが観察する2個体間の距離を求めた。約250時間の同時2個体追跡データが得られ、個体の空間分布パタンが明らかになった。また、個体間距離の推移にはロングラウドコールと呼ばれる長距離音声が強く影響していると考え、この音声を指向性マイクとデジタルレコーダーを用いて録音を行なった結果、個体によって音域にかなりの違いがあることが明らかになった。今後の分析により、この音声が行動域内に分散した個体の動態にどのように影響を与え、離合集散を引き起こしているかが明らかになると期待される。


ケナガクモザル (Ateles belzebuth belzebuth)のオトナメス。果実を採食している。


調査地の前を流れるアマゾン河源流のティプティニ川


樹冠部の調査のため高さ25mに設置された吊り橋。

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