事業報告

事業番号:19-030

野生フサオマキザルにおける他個体の情動表出への対応

報告者:森本 陽

期間:2008/01/21 - 2008/03/23

集団で生活し、複雑な個体間関係を持つ霊長類にとって、他個体との相互作用は重要である。申請者はこれまで南米のフサオマキザルにおいて、情動のコミュニケーションを実験的に研究してきた。本申請では、音声コミュニケーションに着目して、野外の自然な個体間交渉においてフサオマキザルが他個体の情動にどのように影響されているのかを調べた。動物の音声シグナルにはreferentialな機能、affectiveな機能の両方があるとされている。具体的な事物や出来事を他個体に伝えるreferencialな音声の機能については多くの研究があるが、一方で聞き手の注意や情動などの内的状態を直接変化させるというaffectiveな機能を示した研究は少ない。本研究では音声シグナルを聞いたサルが示す情動的な行動を分析することによって、サルの音声がaffectiveな機能を持つかを調べた。他個体の情動シグナルを知覚するだけで相手の情動に伝染するという性質は他の認知機能にはない情動の特徴を持つ。こういった情動的な情報の伝達がどの程度行われているかを、自然な交渉場面において検証することが不可欠であった。

 ブラジルサンパウロ市のチエテ州立公園にて、サンパウロ大学Eduardo Ottoni教授らとの共同研究を行った。同公園には1グループ20頭あまりの半野生フサオマキザルが生息しており、2008年2月〜3月にかけてこのグループを対象に他個体の情動の理解を調べる野外観察・実験を行った。同種他個体が情動的な音声を聞いたときにサルが示す情動的行動を観察し、他個体の音声が聞き手の情動状態に与える影響を調べた。具体的には、情動を強く反映していると考えられるスクリーム音声、比較的情動が反映されていないと考えられるホイッスル音声が他個体から発せられたときに、サルが行う警戒行動、情動表出、自己指向的行動などのデータを得た。今後フサオマキザルが他個体の音声からaffectiveな影響を受けているかどうか分析を行う。


Tiete Ecological Park


capuchin monkeys

HOPE Project<>