事業報告

事業番号:19-016

大型類人猿の腸内に生息する乳酸菌に関する研究

報告者:牛田 一成

期間:2007/11/04 - 2007/11/28

HOPE事業の補助を受けて実施したこれまでの研究で、野生チンパンジーと飼育下チンパンジーの腸内細菌および腸内原生動物の共通点と差異について明らかにしてきた(Ushidaほか2005,Uenishiほか2006)。ヒトと同様にチンパンジーにおいても腸内細菌の主要構成要素として乳酸菌(ビフィズス菌)が存在することがわかったが、興味深いことにビフィズス菌の種構成が、飼育下チンパンジーと野生チンパンジーでかなり異なり、前者ではヒト型のビフィズス菌が検出されるのに対して、後者ではヒトにあまり見られないタイプのビフィズス菌が優占していた。またヒトの生活域から離れたマハレチンパンジーではヒトの生活域に近いボッソウチンパンジーと比べてさらに特殊なビフィズス菌が優占していることがわかった。これまでフィールドにおける細菌学検査は不可能であったが、対象とする細菌種を選べばボッソウの施設でも実施が可能と考え、今回は乳酸菌をボッソウの野生チンパンジーより単離することを目的とした。

TOSプロピオン酸平板培地、TOSプロピオン酸高層寒天培地、LBS平板培地およびLBS高層寒天培地をあらかじめ日本で準備し現地に持ち込んだ。ボッソウ周辺の野生チンパンジーを追跡し、10頭から2回の新鮮糞便採取を行った。直ちに実験室に運び、プラスティック製ループにとり2種の平板培地に直接塗抹した。ペトリ皿を密閉可能なプラスティック容器に移し、アネロパウチ(三菱ガス化学)を同封し嫌気状態を作った。容器を、発泡スチロール製の箱に移し携帯カイロを用いて加温した。温度は、温度計で常時監視し、35℃から40℃の範囲を保つように注意した。培養48時間でTOSプロピオン酸平板にはビフィズス菌コロニーが目視できるようになったが、LBS平板には全くコロニーが発生しなかった。TOSプロピオン酸平板に発生したコロニーは、個体によって数が異なったが1頭から最低5株の単離を行い、最終的に50菌株をTOSプロピオン酸高層寒天培地に穿刺培養した。ビフィズス菌の発育が目視できた段階で培養を停止した。この段階からコナクリを経て日本に持ち帰るまでに最短でも10日が経過したため、日本に持ち帰った50菌株のうち生存が確認できたものは約半数であった。現在、これらの菌株について同定中である。今回の研究は、野生チンパンジー糞便から嫌気性細菌を現場環境で単離する方法論を開発したという点で画期的である。


現地スタッフによる採便作業。
滅菌ピンセットを用いて、滅菌ファルコンチューブ内に採取するように手技について事前に教育した。
プロテクションのために、マスクとゴム手袋を装着させている。



携帯カイロで発泡スチロール箱内が37℃前後を保つようにした。
常時温度計で温度管理している。
箱内には、ペトリ皿とアネロパウチ一袋を入れて密封したプラスティック製弁当箱を入れている。




48時間の嫌気培養の後にプレートに良好に発生したBifidobacterium属細菌のコロニー


高層寒天培地に穿刺培養した単離株

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