事業報告

事業番号:19-015-2

マレーシア・サバ州におけるテングザルの社会・生態学的研究

報告者:松田 一希

期間:2008/03/09 - 2008/03/24

ボルネオ島の固有種であるテングザルは、マングローブ林や泥炭林といった足場が悪く追跡困難な環境を好むことから、研究例は少ない。数少ない過去の研究のほとんども、テングザルが必ず川沿いの木を泊まり場とするという特異な習性を利用し、ボートからの限られた時間内の行動観察であった。しかし、このような限られた時間、場所でのみの観察では、テングザルの生態を明らかにすることは困難である。そこで申請者は、林内での観察が比較的容易な川辺林を調査地として選定し、林内におけるテングザルの生態を明らかにすることを目的とし2005年1月より調査を開始した。このような人付け、個体識別をしたテングザルの群を長期にわってモニタリングした例は過去になく、この研究を今後も継続していくことは、テングザルの生態、社会構造のより深い理解に必要不可欠である。また、長期にわたる研究を行うためには、申請者が現地に居ない期間中にもアシスタントによる基礎データの収集が必要であり、そのための現地アシスタントや住居、ボートなどを管理する調査環境を整えることも重要である。

申請者は、2008年3月9〜24日の間マレーシアへ渡航し研究活動を行った。サバ州・コタキナバルでは、現地カウンターパートと研究の報告、打ち合わせをした。また、テングザルのDNA解析で共同研究を行っているサバ大学とカーデフ大学の研究者とも今後の活動予定などについて話し合いを行った。これに加えて今回の渡航では、現地動物園の責任者と会合し、テングザルの飼育方法について野生下の研究からの知見を提言した。
調査地であるスカウ村においては、申請者が現地に居ない間も現地アシスタントが継続して行ってきたデータ収集を取りまとめた。特筆すべきは、長期にわたりモニタリングを行ってきた単雄群のオス交代が起こったことであった。申請者が訪問した期間中は、非常に雨量が多く川の水位が通常よりも2mほども上がっており、林内を歩いてサルの観察はできなかった。しかし、ボートからだけではあったが、同定が完了している単雄群間の交渉を観察することができた。
今後、スカウ村とは異なる地域に生息するテングザルの生態や社会構造との比較研究を視野に入れ、スカウ村より60kmほど上流に位置するダナウ・ギランという地域を訪問してテングザルを観察した。植生はスカウ村と概ね同じであるが、この地域にはいくつもの三日月湖が存在し、そこをテングザルが泊まり場として利用していた。スカウ村のテングザルとは異なった土地利用が期待される。これとは別に、コタキナバルより車で2時間ほどの位置にあるクリアスという地域に生息するテングザル群も観察した。この地域の植生は川辺林であるスカウ村とは大きく異なるマングローブ林であり、ここに生息する群の生態もスカウ村で観察されるものとは大きく異なると予想される。


テングザルのアカンボウ(ロッカウィ動物園にて)


対象群のオトナ・メス

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