事業報告

事業番号:19-013

博士課程での研究における調査地選定のための調査地見学

報告者:西川 真理

期間:2007/06/03 - 2007/06/18

 申請者は、ニホンザルを対象に、特定の樹木個体を採食パッチとして繰り返し利用することに注目して、ニホンザルは食物パッチの空間的な分布の認識を持っているのか、ということをテーマに屋久島で調査を行ってきた。採食樹への移動距離と移動速度の分析から、ニホンザルは記憶に基づいて食物パッチを訪問している可能性が示唆された(西川:未発表)。しかし、ニホンザルは群れ生活者であるため、その記憶が個体の記憶か群れとしての記憶によるのか明確に分からなかった。この点をさらに詳しく研究するためには、同じ群れ生活者であるほかの霊長類およびペア型生活者、単独生活者の研究を行う必要がある。この比較検討の対象となる霊長類が生息するダナンバレー森林保護区、スカウ、タビンの調査地を見学し、ニホンザルで行ったような調査が可能であるかを検討する必要があった。また、実際の調査環境を見学することで、どのような調査が実現可能かを検討する必要があった。

 申請者は、マレーシアのボルネオ島ダナンバレー森林保護区のフィールドセンター(以下DVFC)、レインフォレストロッジ(以下BRL)、およびスカウのキナバタンガン川周辺を訪問した。2007年6月5日から10日までの6日間、DVFCに滞在し現地で調査をおこなっている半谷吾郎氏に同行して調査の見学をおこなった。滞在期間中の3日間、レッドリーフモンキー、オランウータン、ミューラーテナガザルの採食行動の観察を行うことができた。ミューラーテナガザルは移動速度が非常に速く樹高の高い場所を利用しているため、非常に追跡が難しかった。短時間ではあったがブタオザルも目撃した。レッドリーフモンキー、オランウータンはある程度人慣れしているため、継続して調査をおこなえば、さらに人付けが進むと予想された。また、半谷氏の生態学的研究の調査の方法(採食品目の収集の方法や果実生産量センサスの方法など)も見学した。さらに、DVFCのスタッフが行っている植物採集にも同行し、サンプル採集と標本作りの現場を見学した。2007年6月12日はスカウ村に滞在し、ボート上からゴマントン川の川辺に集まるテングザル、カニクイザル、ブタオザルを観察した。川辺で見た群れはボートでの接近には非常に慣れていたが、宿泊所付近に現れたカニクイザルの群れは人慣れしておらず、観察者が接近すると隣接する逃げ、しきり警戒声を発していた。2007年6月13日から15日の3日間はBRLに滞在し、オランウータンの調査をおこなっている金森朝子氏の調査に同行した。14日はnest to nestの観察をおこなうことができた。期間中、オトナメス2個体の追跡をおこなったが、人慣れの程度にはかなり個体差があった。DVFCに比べると地形が平坦であるため、霊長類の追跡調査がより容易であった。


DVFCで観察されたレッドリーフモンキー


スカウで観察されたテングザル(ボート上から撮影)


BRL周辺の森の様子

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