事業報告

事業番号18-057

ベトナムにおける森林性哺乳類相の多様性に関する進化生物学的研究

報告者:川田 伸一郎

期間:2006年11月28日 〜 2006年12月3日

 ベトナムは西側国境にアンナン山脈が縦走し,この地域は世界的に見ても特に生物の多様性が高い地域として名高い。山脈から西部は,低標高の乾燥地帯が広がるため,ベトナム中部から南部は中国からヒマラヤに連続する山岳地帯から長い隔離の歴史を経ていると考えられる。生物学的に見るとこの地域にしか見られない固有種が多数存在するが,これらについてはこれまでに生物学的研究が不十分である。そのため現地での捕獲調査や形態学的・遺伝学的調査を行い,標本を蓄積することが必要である。そこで本派遣ではベトナム中部のQuang Nam県,Dong Giang地区を訪問し,野生哺乳類の調査を行った。

ベトナム中部の哺乳類相を明らかにする目的で,小哺乳類の捕獲調査および現地での聞き取り調査を行った。捕獲調査ではベトナム南部に固有の食虫類Euroscaptor parvidensを多数捕獲することができ,形態観察および頭骨標本を作製の上,計測を行った。また染色体・遺伝子研究用のサンプルを採取した。これらのサンプルは現在解析中である。現地には少数民族の部落があり,この地域に生息する野生哺乳類の情報を収集したところ,偶蹄類の代表的なものとしては,比較的近年発見されたサオラの分布南限に位置することや,スマトラカモシカ,ホエジカなどが生息することが判明した。霊長類として,かつてはテナガザル類が生息していたらしいが,近年ほとんど見られなくなったという話で,この地域に多数生息する種としてベニガオザルMacaca arctoidesの名が挙げられた。現地の方はこれらの哺乳類を捕獲して食料として利用しており,その住居には多数の頭骨遺残物が飾ってあった。これらの中には上記の種に加えて,ムササビ類,タケネズミ類,ヒヨケザル類,イノシシ,ハクビシンといった種が確認できた。


山中で捕獲されたモグラ


少数民族部落に保管されていた霊長類頭骨

 

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