事業報告

事業番号18-042

クリス・S・デュヴァル氏 招へい西アフリカにおけるチンパンジーの生息環境に関する比較研究

報告者:山越 言

期間:2006年11月4日 〜 2006年11月15日

招聘者Duvall氏は、現在ウィスコンシン大学地理学部に所属し、西アフリカ、とくにマリ共和国における野生チンパンジーの生態に関する第一人者である。氏の調査地であるマリ南部は、チンパンジーの生息状況について、これまでほとんど研究蓄積がなく、そこから得られる情報は貴重である。

氏は、アフリカの霊長類学、とくにチンパンジー研究においてはこれまで手薄であった生物地理学的アプローチを得意としており、シンポジウムでの講演などにより、新たな研究アプローチの構築が期待できる。また、京都大学霊長類研究所を中心に、本学が30年にわたって野生チンパンジーの研究を継続しているギニア共和国南部のニンバ・ボッソウと地理的に近いため、両地域の比較研究によって生まれることが期待される多大な研究成果について、情報交換を行う重要性は高い。また、現在危機が叫ばれる同地域のチンパンジーの保全計画について、実質的な議論をおこなう。

11月6日に名古屋市、第二豊田ホールにおいて行われたHOPEワークショップ、「人間の進化の霊長類的起源」において、「マリ、バファン地域におけるチンパンジー西亜種の重層的生物地理学」というタイトルの講演を行った。チンパンジー生息地の乾燥限界に近い同地域において、チンパンジーの生息を支える、地質、植生から人間活動にわたる重層的な構造を解き明かすたいへん実証的でスリリングな研究発表であった。このような調査アプローチは、既存の霊長類学の枠を超え、地質学、地理学や民族誌といった隣接領域を統合した複眼的展開の良い手本であり、とくにシンポジウムに参加していた若手の研究者に対して、大きな影響を与えたに違いない。

 霊長類研究所においては、ギニアにおいて研究を行っている研究者と議論、打ち合わせをおこなった。近年、UNEP、UNESCOによる、GRASP(大型類人猿保全計画)の立ち上げに見られるように、西アフリカの野生チンパンジー亜種の保全について、国際的関心が高まっている。このような中、マリ、ギニアをふくむ国境を越えた地域ベースの保全活動の可能性について、実質的な打ち合わせをすることができた。

 

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