事業報告

事業番号18-022

ロリス科四肢骨の荷重耐性に関する比較形態学的研究

報告者:江木 直子

期間:2006年9月26日 〜 2006年10月13日

スイス

 本研究は,CT影像を用いて,ロリス科霊長類の四肢骨形態を他の小型霊長類のものと比較することにより,ロリス科特有のロコモーションへの形態適応について検討を加えようとするものである。このためには,多量の原猿類標本とそれらを高精度で撮影できるCT機器が必要である。原猿類標本は,国内機関では所蔵数が少ないため,国外研究機関でデータを収集する必要がある。チューリッヒ大学人類学研究所博物館には,「シュルツコレクション」と呼ばれる世界的に見ても大規模な霊長類骨格標本が所蔵されており,また海外の博物館としても先駆的な試みとしてmicroCTが導入されているため,本研究のデータ収集を行うには現在もっとも適当な研究機関である。

 霊長類には様々な移動運動様式が見られ,ロリス科のそれは,跳躍が欠如した静かな樹上性四足歩行で特徴付けられる。この歩行では,四肢にかかる反力が比較的小さい一方,静的に体を支えるために筋肉から大きな荷重が四肢骨にかかっていると指摘されている。しかし,これに対するロリス類四肢骨の形態適応については,一致した見解が得られていない。 荷重耐性についての骨形態指標の算出には,外形と内部形態の情報が必要である。本研究は,microCTによる影像を用い,従来の方法に比べて3次元に正確な骨形態情報にもとづいて,ロリス科と他の霊長類の差異を明確にしようとするものである。CT撮影は,大規模な霊長類骨格標本コレクションがあり,研究用microCTが導入されているチューリッヒ大学人類学研究所博物館で行い,約80個体の上腕骨と大腿骨の影像を得た。今後,このCT影像から,従来使われてきた中軸部断面係数に加えて,関節部での骨梁走行や緻密骨量を計測し,ロリス類四肢骨での荷重耐性の特徴を解析する。 また,同研究所は,霊長類の形態解析について先端的な研究を行っており,今後の共同研究について協議した。


Zurich大学Irchelキャンパス

 


ロリス科(Arctocebus)の骨格

 


Zurich大学人類学研究所博物館のmicroCT

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