事業報告

事業番号18-013

フィールドワーク

報告者:堤 清香

期間:2006年8月2日〜2006年9月20日

 フサオマキザルの道具使用行動は、これまで飼育下における分析によりその認知的メカニズムが明らかにされてきたにも関わらず、野生下で道具使用が報告されたのはごく近年になってからである。ブラジルの Tiete Ecological Parkには、石器を使ってナッツ割りをする半野生のフサオマキザルが生息しており、サンパウロ大学のOttoni博士を中心とするチームによって研究が続けられている。本事業では、飼育下で明らかにされてきたフサオマキザルの知性が、実際の自然な生活場面でどのように機能しているのか、とくに、ナッツ割りの場面において、自己−道具−他者の3項目の社会関係がどのように理解されているかを明らかにすること目的とし、 Ottoni博士らの協力のもと、半野生個体を対象とした野外実験を行った。実験では、3項目の社会関係の理解を調べるとともに、こういった社会関係がサルにとっての道具の価値そのものにどう影響するかを調べた。

 活動は、まず、サンパウロ市内にあるサンパウロ大学でOttoni博士の研究チームと打ち合わせを行い、研究計画を協議した。その後フィールドとなる Tiete Ecological Parkに入り、サルが好んでナッツ割りをする場所の選定や、群れの構成、社会的順位、道具使用が行われやすい時間帯などに関する基礎データの収集を行った。その後、ナッツ割り場面における自己−道具−他者の3項目の社会関係の理解に関する野外実験を行った。

実験では、サルが好んで使う敷石とハンマー石のセットを複数組用意し、ナッツ割りサイトを訪れるサルが、単独でひとセットまたはふたセットの道具を独占して使う場合と、複数のサルがそれぞれひとセットずつの道具を並行して使う場合とで、道具の選択行動に差があるか、また、社会的順位や道具の位置がどのように道具の選択行動に関係するかを調べた。

この結果、物理的には同じ道具であり、また、それを一個体ひとセットずつ使うという点に関しても同じであるにも関わらず、同じ場で道具使用をしている個体が他にいるかいないかによって、自分が使用している道具の社会的価値が変化すること、また、このことは社会的順位と関係があることが示唆された。今後、さらに細かい分析を重ねていきたい。


ナッツ割りをするオマキザル 堤2006


今回のフィールド、Tiete Ecological Parkの様子 堤2006

 

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