事業報告

事業番号17-015(共同研究)

ボルネオ島ダナムバレー森林保護地域における野生オランウータンの調査

報告者:金森 朝子 東京工業大学生命理工学研究科 博士課程3年

期間:2005年6月13日-9月3日

訪問先:マレーシア領ボルネオ島ダナムバレー森林保護地域

ボルネオ島サバ州、ダナムバレー森林保護地域内にある観光用ロッジ周辺2km2において、野生オランウータンの調査を継続して行っている。2005年6月〜9月上旬までの今回の調査で、調査地設定から約一年が経過した。今回とこれまでの調査結果をまとめて報告する。


 これまでの調査で、オランウータンを総計23頭確認した(Flanged Male 3頭、Unflanged Male 5頭、Mother and Baby 10頭、Adult Female 1頭、Adolescent Female 2頭、Juvenile 2頭)。このうち、識別されている個体は計15頭である。毎回の調査ごとに新しい個体が見つかるので、今後も個体数は増加すると思われる。乾季の調査では昨年11頭、今回14頭を観察したのに対して、雨季の調査では7頭と、雨季には観察個体が少ない傾向が見られた。また、ネストセンサスでも、乾季である8月には昨年76個、今年83個を数えたのに対して、雨季である今年3月の調査では21個しか確認できなかった。さらに今回の乾季調査(6月〜9月上旬の46日間)では、総探索時間303時間49分中、オランウータンを実際に観察できた時間は151時間51分(22日間)、したがって遭遇率は50.0%で、昨年乾季の調査時(04年7〜9月)の遭遇率53.8%とほぼ同レベルであったのに対して、雨季(05年2〜3月)の遭遇率は21.8%と、乾季の半分以下であった。つまり本調査地では、乾季にはほぼ2日に一度オランウータンに遭遇できたのに対して、雨季には5日に一度しか遭遇できなかったことになる。以上の結果から、本調査地周辺のオランウータンは乾季には調査地付近に集中し、雨季には分散する傾向があることが示唆された。

落下果実センサスの結果、雨季である2〜3月から乾季である4〜6月には落下果実が約30種であったのに対して、7月〜8月には約120種類と急激に増加した。したがって、調査地に起きる乾季と雨季のオランウータン密度の違いは、果実量と関係している可能性が高い。特に今年ダナムバレーでは7月〜8月にかけて、フタバガキ科(Dipterocarpaceae)の開花が始まり、7月以降に収集した果実の半数以上がフタバガキ科の果実であった。フタバガキ科の開花が始まった今年の乾季と開花が無かった昨年の調査結果を比較すると、ネスト密度や遭遇率、アクティブバジェットには大きな違いは見られなかったが、食物品目における果実の割合が68%から91%に増加し、その半分以上がフタバガキ科の果実であった。また、果実量の多い7月〜8月には、複数のオランウータンが同じ果樹に集まって採食するなど、社会行動を見る機会も増加した。今後は、フタバガキ科の開花とオランウータンの行動の関係にも注目して調査を継続してゆく予定である。


3-4歳の子供


フランジを持たないオス


フタバガキ科の果実

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