事業報告

事業番号17-014

ヒト上科の胸郭骨格構造の機能形態学的研究

報告者:加賀谷 美幸

期間:2005年10月22日 〜 2005年12月20日

ドイツ

ヒトや類人猿は霊長類のなかでも相対的に幅の広い胸郭をもつことが1つの特徴である。この特徴は、前肢ぶらさがり行動あるいは比較的直立した体幹の姿勢と関連して発達したものと考えられており、胸郭や肩帯の骨形態は化石資料から類人猿の進化プロセスを知る上で重要な手がかりとなる。現生霊長類の胸郭の形態を定量的に分析し、姿勢や運動様式との対応を明らかにするため、国内では希少な霊長類の骨格標本を多く所蔵する3つの研究機関を訪問して肋骨、椎骨などの計測を行うことを必要とした。ベルリン自然史博物館には、腰椎形態に類人猿との類似が指摘され、姿勢と形態の関連を考察する上で興味深い比較対象であるインドリ類の標本が揃っている。ミュンヘンの州立動物学コレクションは、オランウータンとシルバールトンの標本が豊富である。チューリヒ大学人類学教室のコレクションは類人猿の標本が特に充実し、それらのほとんどはA.H.シュルツによる類人猿の胸郭形態に関する古典的論文の基礎となったものである。

三研究機関において計77個体の骨格を計測した。各標本について、肋骨1対を対応する2つの胸椎に組み合わせて固定し、直交する二方向からの写真を撮影して胸郭骨格の概形データを取得した。撮影画像上のピクセル座標を利用して肋骨形状を三次元ベジェ曲線に近似させ、曲線を代表する変数を抽出し比較する作業を現在行っている。肋骨形状との関連を分析するために椎体長、胸骨幅、鎖骨長、肩甲骨長、上腕骨捻転角の計測も行った。類人猿と新世界ザルの標本をチューリヒ大学人類学教室で、オランウータンとシルバールトンの標本をミュンヘンの州立動物学コレクションで、インドリ類の標本をベルリン自然史博物館において計測した。チューリヒ大学人類学教室では、ゾリコファー教授や研究室員によるセミナーに出席し、研究動向についての情報交換を行った。ベルリン自然史博物館では、標本を収集し保存・管理することの意義やその活動のようすをわかりやすく伝える展示を工夫しており、これを見学した。

 


ベルリン自然史博物館


ミュンヘン州立動物学コレクション


チューリヒ大学人類学教室のコレクション

 

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