事業報告
事業番号17-009
東南アジア更新世オランウータンン化石及び中新世類人猿化石の形態学的研究
報告者:國松 豊
期間:2005年10月16日 〜
2005年11月20日
訪問先:ライデン 国立自然史博物館
現在の化石記録のなかには、現生の類人猿に直接つながる化石はほとんど知られていない。わずかな例外が、アジア東部から見つかっている更新世のオランウータンやテナガザルである。そのなかには、東南アジア諸国の独立前に収集された化石標本が多数含まれており、その大半がヨーロッパの博物館・大学等に保管されている。したがって、東南アジアの更新世オランウータン化石を直接調査するためには、オランダ、ドイツ等、ヨーロッパ諸国に赴く必要がある。また、当然の事ながら、これらの化石コレクションを収蔵している研究機関には、東南アジアの古生物学を専門とする研究者が在籍しており、彼らとの情報交換・議論も研究遂行上、有益である。ギリシアからは以前より、約900〜1000万年前の中新世化石類人猿ウラノピテクス(Ouranopithecus)が出土しており、最近、東アフリカのケニアで日本隊が発見した同時代の大型類人猿化石の比較研究のために、このウラノピテクス標本を調べる事が緊急の課題となった。
タイでは、チュラロンコーン大学において開催された国際シンポジウム「International
Symposium on Southeast Asian Primate Research "Biodiversity Study
from DNA to Ecosystem"」に参加し、タイにおける近年の中新世類人猿化石の発見について発表した。このシンポジウムは題名の示すように大変幅広い内容で、日本からもタイ周辺の東南アジア諸国からも多彩な参加者が見られた。オランダでは、国立自然史博物館を訪れた。ここには、E.
Duboisがインドネシアで精力的に収集した膨大な標本が保管されており、デュボワ・コレクションの名で知られている。今回観察した標本は、スマトラ島の洞窟から発見されたオランウータン化石であるが、それだけでも3000個を超える遊離歯化石が含まれている。ドイツでは、ゼンケンベルク研究所が保管するケーニヒスヴァルト・コレクションのなかから、インドネシア・ジャワ島出土のオランウータン化石の観察・計測をおこなった。咬耗の進んだオランウータンとホモ・エレクトスの歯はしばしば区別が困難となるため、ジャワの化石においても、その点が問題となっている。そのため、同じコレクションのなかのジャワ出土のヒト化石についてもデータを集めた。また、ジャワのテナガザル化石についても予備的な観察をおこなった。ギリシアでは、テッサロニキ・アリストテレス大学において、ギリシア産出の中新世類人猿ウラノピテクス化石(約900〜1000万年前)を調べ、ケニアから発見されたアフリカ中新世類人猿化石と比較した。また、両者の関係について、Koufos教授と情報交換をおこなった。
ライデン国立自然史博物館。中央に見えるタワーの中に膨大な標本が保管されている
フランクフルトのゼンケンベルク研究所(博物館部分)
ライデン国立自然史博物館所蔵のデュボワ・コレクションの一部
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