事業報告
HOPE報告39号、2005年4月10日
事業番号39(共同研究)
ボルネオ島ダナンバレー森林保護地域における野生オランウータンの調査
報告者:金森 朝子
東京工業大学生命理工学研究科 博士課程2年
期間:2005年2月21日 - 3月30日
訪問先:
マレーシア領ボルネオ島ダナンバレー森林保護地域
平成16年度よりボルネオ島マレーシア領サバ州に位置するダナンバレー森林保護地域内にある観光用ロッジ周辺2km2にて、野生オランウータンの調査を継続している。今回の調査目的は、雨季(2〜3月)のオランウータンの生息状況を調査し、昨年乾季(7〜9月)に行った調査結果と比較することである。今回の調査では、オランウータンの探索調査とともに、落果果実センサス2回、ネストセンサス1回を行った。
以下に調査結果を報告する。オランウータンの観察時間は全探索時間102時間30分中(20日間)、計22時間21分(4日間)であった。遭遇率は21.8%であり(5日に一回)、昨年乾期(7〜99月)に行った調査時の遭遇率53.8%(2日に一回)と比較すると、観察頻度は大きく低下した。今回の調査では、10歳未満の青年期のメス(Adolescent
Female)とフランジを持つ30歳以上の成体オス(Flanged Male)、計2頭の追跡観察に成功した。この他、母子2組と妊娠した成体メス1頭、計5頭を同時に目視することができた。総計7頭観察したうち、前回の調査でも識別された個体は、10歳未満の青年期のメス1頭のみであった。
総計約21kmのトレイルを利用したネストと落果果実のセンサスでは、今回(2〜3月)は、23個のネストと29種類(11科25属)の落果果実が記録された。昨年9月のセンサスでは97個のネストと94種類(24科37属)の果実が記録されているので、前回に比べ、オランウータンの生息密度と果実の種類・量が大きく減少していることがわかった。
今回追跡観察を行なった2個体のActive Budgetは、採食(39%)休息(34%)、移動(25%)であり、Lostは1%、Otherは1%、観察者に対する威嚇は0%であった。昨年9月に調査した4個体のActive
Budgetは、休息(38%)、採食(36%)、移動(14%)であり、Lostは7%、観察者に対する威嚇は4%、Otherは0%であった。前回と比較すると、今回の調査では、移動の割合が増加しているのがわかる。
食物利用に関しては、今回はフルーツが最も多く(68%)、若葉(12%)、形成層(11%)、花(9%)の順に利用されていた。前回も、フルーツ(48%)、葉(38%)、樹皮(7%)、花(2%)、他(4%)の順に多く利用されていたが、前回よりも今回の方が、同じ種のフルーツを長時間採食する傾向が見られた。
今回の調査では、以下のような貴重な社会交渉の事例が観察できた。この事例では、一本の果樹に滞在していたフランジを持つオスの周辺に、果実を採食するために集まった母子2組と成体メス1頭が同時に観察された。この間、オスは同じ枝上にいる一頭の母親メスに対しロングコールを行い、枝を揺らすという社会交渉を行った。それに対して、このメスは、ロングコール中はオスを注視していたものの、コール後すぐに採食を再開し、その後オスに2m以上接近することはなかった。
以上の結果から、雨季のオランウータンは、少ない果実を探して移動を繰り返すこと、また、数少ない結実樹に多くの個体が集中する場合があることなどが示唆された。今回の調査で観察例が少なかったのは、観察者がその少ない結実果樹を発見できなかったため、発見効率が下がった可能性も考えられる。よって今後は、餌となる果樹の分布をより詳しく調べて、発見効率をあげる予定である。
フルーツを採食する青年期のメス
休息するフランジを持つ成体オス
ロッジにあるキャノピーウォーク
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