事業報告

HOPE報告38号、2005年4月8日

事業番号38(共同研究)

ボルネオ島ダナンバレー森林保護区の調査地見学

報告者:半谷 吾郎 京都大学霊長類研究所・日本学術振興会特別研究員

期間:2005年 3月10日 - 22日

訪問先: マレーシア・ダナンバレー森林保護区およびキナバタンガン下流生物サンクチュアリ

申請者はこれまでニホンザルの生態学的研究を行ってきた。ニホンザルは温帯に生息する数少ない霊長類のひとつであり、その生態学的適応の特徴を理解するためには、熱帯の霊長類、とくに東南アジア熱帯に生息するマカクとの比較が重要である。霊長類の生態学的研究を行うことのできる調査地を探すことを目的として、ボルネオ島サバ州内の調査地を訪問し、調査の可能性について検討した。

ダナンバレー森林保護区は面積438km2の森林保護区で、第三セクターのサバ財団によって運営されている。もっとも近い都市ラハダツから車で2時間、もっとも近い人家から車で1時間の距離にある。保護区内では比較的人為的撹乱の少ない状態の森林が残されており、狩猟はまったく行われていない。保護区内には研究支援設備であるフィールドセンター(以下センター)および観光施設であるボルネオレインフォレストロッジ(以下ロッジ)があり、その両方に滞在した。この二つの施設は距離にして48km、車で約1時間の距離にある。

どちらでも、一日に二種以上の昼行性霊長類に遭遇し、オランウータン・ミュラーテナガザル、クリイロコノハザル、ブタオザルの4種類に遭遇した日もあった。なお、センター周辺にはブタオザルは多いがカニクイザルは少なく、ロッジ周辺ではその逆であった。オランウータンはどちらの地域でも人付けされていたが、そのほかの種はロッジ周辺では人付けされているものの、センター周辺では観察者を警戒し、すぐに逃げてしまうことが多かった。

センターでは長期滞在する研究者は独立した宿泊用の建物を与えられるほか、実験室や計算機室を与えられ、インターネットへの接続も可能である。調査のアシスタントが常駐しており、彼らによって月1回展葉・開花・結実フェノロジーの調査が行われている。総延長50kmにおよぶトレイルと、恒久的な植生調査区が設置されている。ロッジでは研究者支援のための設備はないが、トレイルはセンター周辺と同様整備されている。

また、キナバタンガン下流生物サンクチュアリを訪問した。ここでは、北海道大学大学院生の松田一希氏が今年2月からテングザルの調査を開始した。夕方にキナバタンガン川とその支流の川辺にテングザル・カニクイザル・ブタオザル・シルバーリーフモンキーが集まってくるため、ボートからの観察はきわめて容易である。また、少なくともボートから観察している限りはどの種も非常に人馴れしており、詳細な行動観察は可能であると思われた。森林はかなり撹乱を受けており、樹高も低いが、その分原生的な森林よりも観察は容易であるかもしれない。なお、この地域にはほかにミュラーテナガザルとオランウータンも生息している。

 


ダナンバレーフィールドセンターの食堂

 


ダナンバレーフィールドセンターのオランウータン

 


キナバタンガン川スカウのテングザル