日本学術振興会先端研究拠点事業
第3回HOPE国際セミナー:
第7回SAGA国際シンポジム
ならびに21COE京大心理連合国際ワークショップと共催
日時:2004年11月12日(金) 18:00-20:00
場所:京都大学時計台記念ホール
招待講演者:ジェーン・グドール (JGI、イギリス)
演題:「アフリカの森からのメッセージ」
概要:生き物に関心を持った少女時代から、アフリカへ渡りチンパンジーの研究をはじめるまでの経緯をいくつかのエピソードをまじえて語った。幼いころにわとりのたまごについて熱心に語るのを忍耐強く聞いてくれた母親、経験も学位もない彼女に野生チンパンジーの調査をする機会を与えてくれたルイス・リーキー博士との出会い、世界的な発見となったシロアリ釣りなどの野生チンパンジーの生活。彼女の人生の転機となったできごとを披露した。最後に現在チンパンジーの置かれている現状について訴えるとともに、希望をもって自ら行動することの大切さについて語った。
(文責 :井上紗奈)

SAGA世話人会の昼食時ミーティングにおけるジェーン・グドール

京大時計台記念ホールで講演中のジェーン・グドール

ジェーン・グドールの京大時計台講演に耳を傾ける聴衆
写真撮影:幾田英夫
第3回HOPEレクチャー ジェーン グドール博士による講義
の要約
日付:11月12日、2004年
場所:京都大学時計台
HOPE、SAGA7、JGI日本
グドール博士は、初めて自分が動物への関心を持つに至ったいきさつから話を始め、それは大変聴衆をひきつけました。彼女は子どものころ、鶏がどうやって卵を生むのかということに興味をもち、それを知りたいと思いました。そして鶏が卵を産む瞬間をひとりで(彼女がそれを観察している間、彼女にとっての理解者である母親は娘を必死で探していましたが)観察するために、忍耐強く何時間も待ち続けました。この魅力のとりこになった彼女は、動物に関する書物を徹底的に読みあさったということについても、熱心に話し続けました。
彼女は有名な文化人類学者ルイス・リーキーに会いました。そして、彼は彼女の自然界についての知識に感銘を受け、自分と一緒に研究をするよう彼女を誘いました。
当時、野生の類人猿に関しての事実は何も知られていませんでしたから、ルイス・リーキーは、類人猿それぞれに関しての調査をするために、若い熱心な人々をフィールドに送り込むことを決心しました。
彼は、アフリカで、チンパンジーに関してできる限り多くの調査をするのに、ジェーン グドールを任命しました。
当時、若い英国の少女がこれを独力で達成するには、ほとんど途方もなく不可能な任務でしたから、多くの説得をされたあと、ジェーンは研究を始めるためにアフリカへ行くことを認められましたが、1つの条件がありました。1人では危険なので誰か必ず同伴者が必要だ、というのです。すると、母親が「それならわたしが一緒に行くわ」と言ってくれました。
二人はタンザニアに着き、ジェーンは神秘的なゴンベのチンパンジーのいる場所を探し、一目でも見ようとし始めました。それは決して容易なことではなく、なにも得られないまま何ヶ月も過ごしました。その後しばらくして、彼女は、徐々にその群れに受け入れられるようになり、チンパンジーの群れの興味深い社会構造や生態のすべてを観察することができるようになりました。何ヶ月にもわたってこのように注意深く観察をしているうちに、彼女は、何かもっと新しい事実を見つけたいという気持にかり立てられていました。チンパンジーがアリを釣るために道具を使用しているのを初めて目撃した時、彼女は必要としていた突破口を見つけたんだと感じました。
この新たに観察された生態は、チンパンジーの認知能力の可能性についての問題を提起し、今や成功をおさめている長期チンパンジー調査研究場所であるゴンベにおける彼女の将来の研究の継続を確実なものにしました。
ジェーンは、彼女が見つけた多くのゴンベのチンパンジーの多彩な関係や、これらの特別の関係がこの数十年にわたる研究をどう発展させてきたかについて(図を用いて)説明し続けました。ジェーンは、また、研究が始まって以来見てきたゴンベの変化や、いかに多くの森林が容易に消滅しているのかという懸念についても語りました。 この生息地の減少と崩壊はゴンベのチンパンジーに影響を与えるというだけでなく、アフリカに生息する野生のチンパンジーの個体数の存続に対しての最も大きな脅威のうちのひとつとなっています。グドール博士はゴンベでの森林再成促進プロジェクトについて、熱心に話しました、そして森林再生プロジェクトには、地域社会を巻き込んで教育することが効果的であるということを聴衆に訴えました。 ジェーン グドールは、"Roots and Shoots"と名づけたグローバルプログラムも設立しました。
このプログラムは、すべての年齢の若者が、自分たちの地域社会で活発な役割を果たすだけでなく、環境保護や動物保護や動物に対する関心を強く持つことによって、自分たちを変えていく力を与えてくれます。
根は十分に強ければ、壁を突き破ることすらできます。ですから、私たちがみんなで団結し、環境のために戦うならば、将来に希望が持てます。彼女は核災害の後という生命が全く存在しないように見える場所でさえ、再び生命が育つことができるという驚くべき能力があるということについて話しました。 このことから、私たちは希望をもって、すべての類人猿の個体数およびそれらが住んでいる生息地の長期存続を保証するために、私たちができるあらゆることをし続けなければなりません。
グドール博士は、動物園にたまたま見物にきていたひとりの一般市民の男性がチンパンジーを溺死から救ったという感動的な話をすばらしく語りました。手短に紹介しますが、この人は、命をかけてオリを囲んでいる柵を飛び越え掘りに飛び込みました。そして乾いた地面におぼれかけたチンパンジーを引きずり出しました。その間、自分を誇示しているオス達は彼に向かって突進して行こうとしていました。チンパンジーを救うために、危険に身をさらした理由を後で質問された時、彼はチンパンジーの目をのぞき込んだとき、それがまるで人間の目をのぞき込んだときのようだったと答えました。それで、彼にはチンパンジーの命を救おうとする以外の選択肢はなかったのです。
結論として、この感動的な物語は、私たちにいちばん近い親類に対して私たちには責任があるということの注意を喚起しているということです。私達は彼らの未来にたいしての責任があります。そして彼らのもともとの生息地に彼らがこれからも生き続けていけるよう保証できることは、なんでもしなければなりません。 レポート: Kim Hockings (翻訳:福冨憲司) 参考文献
ジェーン・グドール著、河合雅雄訳、森の隣人、朝日新聞社
ジェーン・グドール著、庄司絵里子訳、チンパンジーの森へ:ジェーン・グドール自伝、地人書館

Mr. H Junior
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