日本学術振興会先端研究拠点事業

第3回HOPE国際セミナー:
第7回SAGA国際シンポジムならびに21COE京大心理連合と共催

日時:2004年11月13日(土) 09:15-12:00
場所:京都大学時計台記念ホール

招待講演者:


マーク・ハウザー (ハーバード大学、アメリカ)
道徳性の進化的起源
ヒトの道徳性の霊長類的基盤として、協力による問題解決場面での行動を報告した。 
子育てを共同でおこなう小型新世界ザルを対象に、協力行動の出現を調べた。課題のなかで役割が交代する状況で、他個体のために台をひっぱるという協力行動がみられた。相手が自分のために台をひいてくれない場合には、自分も相手のために台をひかなくなるという現象も報告された。

入来篤史 (東京医科歯科大学/理研、日本)
サルの道具使用の脳内メカニズム
道具使用は霊長類の高い認知的能力を示すものとして注目されている。ニホンザルに道具使用を学習させて、その際の脳の活動を測定した。手の届かないところにある食べ物をひきよせるために、熊手のような道具を使うことを訓練されたサルは、手の延長として道具を認識している可能性が示唆された。

浅田稔 (大阪大学)
人間の脳と心の理解をめざす認知発達ロボット学
人型ロボットやサッカーをするロボットの開発など、さまざまなロボットがうみだされている。ヒトの理解を進めるためのアプローチの一つとして、ロボット自身が学習能力をもち、発達していくというロボットが紹介された。チューブの形状を変化させることで音を作り出すロボットに、ヒトが対面して、日本語の母音を学習させた結果について報告があった。

(文責:林美里)


写真説明:左からマーク・ハウザー、浅田稔、入来篤史の各氏(撮影:幾田英夫)

 



 "The 2nd Workshop for Young Psychologists on Evolution and Development of cognition"は、2004年11月13日、14日の2日間にわたり、京都大学にておこなわれた 。国内外の若手研究者による、進化や発達を視野に入れた最新の心理学研究についての口頭発表およびポスター発表がおこなわれた。

 口頭発表では「社会的交渉と社会的知性 (Social interaction and social intelligence)」(座長:藤田和生)、「行為という視点から(Views from Action)」(座長:子安増生)、「環境の物理的側面についての認識(Recognition of Physical Aspects of Environment)」(座長:田中正之)、「言語とコミュニケーション(Language and Communication)」(座長:遠藤利彦)、「社会的認知(Social recognition)」(座長:板倉昭二)と題した5つのセッションにわかれて、計20件の研究発表がおこなわれた。

 「社会的交渉と社会的知性」のセッションでは、鳥類、哺乳類の多様な種を対象として、自種/他種他個体との交渉や、その場で発揮される社会的な知性についての知見について議論がなされた。講演は、相馬雅代(東京大学)、池渕万季(金沢工業大学)、Zsofia Viranyi (Eotvos University)、Sarah Brosnan (Emory University)の4名によっておこなわれた。相馬は、セキセイインコの採餌における同種他個体の影響について、池渕は、キンカチョウの扁桃体相同領域の破壊と配偶者選択に関わる行動の関連について、Viranyiは、イヌがヒトの心的状態についてどれほどの理解をもっているかに関する一連の実験を、Brosnanは、チンパンジーとオマキザルを対象に「不平等忌避」的行動について、それぞれ報告した。

 「行為という視点から」のセッションでは、行為の産出もしくは行為による表現に関わる研究テーマについての発表がおこなわれた。演者は、水野友有(京都大学)、渡辺はま(JST CREST/ 東京大学)、Deirdre Brown (Lancaster University)、安藤花恵(京都大学)の4名であった。水野はチンパンジー乳児の覚醒水準と授乳、新生児微笑の関係などについて、渡辺は、乳児の四肢運動パターンの発達と、運動に伴って生じるイベントの記憶に基づく皮質活動について、Browinは、幼児の描画などによる証言能力について、安藤は、演技者の演技評価に関する研究について、それぞれ報告した。

 「環境の物理的側面についての理解」のセッションでは、ヒトおよびヒト以外の動物における知覚や認知能力についての研究発表がおこなわれた。演者は、Tatyana Humle (University of Wisconsin)、Daniel Hanus (Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)、伊村知子(関西学院大学)、牛谷智一(京都大学)、加藤正晴(東京女子医科大学)の5名であった。Humleは、野生チンパンジーのアリ釣りにおける道具使用行動のバリエーションについて、Hanusは大型類人猿4種による量の判断について、伊村は、チンパンジーの陰影奥行き知覚に関する研究について、牛谷はハトにおける運動する物体の知覚体制化について、加藤はサッカードに及ぼす音声刺激の効果について、それぞれ報告をおこなった。

 「言語とコミュニケーション」のセッションでは、言語的、非言語的なコミュニケーションに関わる研究発表がおこなわれた。演者は、梶川祥世(玉川大学)、麦谷綾子(NTTコミュニケーション科学基礎研究所)、坂口菊恵(東京大学)の3名であった。梶川は乳児の語の知覚について、麦谷は乳児の言葉の産出と知覚における母語特有の発達について、坂口は女性に対する性的アプローチの難易に関わる印象形成についての研究を、それぞれ報告した。

 最後の「社会的認知」のセッションでは、ヒトを含む動物の行動や認知能力について、幅広いトピックの研究発表がなされた。演者は、安達幾磨(京都大学)、Julie Martin-Malivel (University of Southern California)、Wang Zhe (Zhejiang 
University of Sciences)、Kathelijne Koops (University of Utrecht)の4件の発表がおこなわれた。安達は、サルとイヌにおける視覚と聴覚のクロスモーダルなカテゴリー表象について、Martin-Malivelは、ヒト顔とヒヒ顔のカテゴリー弁別の際にヒト、ヒヒそれぞれが利用している視覚的な手がかりについて、Zheは顔認知の発達について、Koopsは野生チンパンジーのグラウンドネストについての調査結果を、それぞれ報告した。

 両日の昼食の時間を利用しておこなわれたポスター発表では、39件の研究発表がおこなわれ、それぞれのポスターの前で活発な議論が交わされた。

(文責:松野響)