事業報告

HOPE報告22号、2004年12月8日

事業番号22(共同研究)

類人猿の体軸骨格の進化

報告者:中務真人 京都大学・大学院理学研究科・助教授

期間:2004年11月14日-12月5日(22日間)

ドイツ連邦共和国、 スイス
ベルリン自然史博物館、チューリッヒ大学人類学研究所・博物館

 ベルリン自然史博物館とチューリッヒ大学人類学研究所・博物館において、霊長類所蔵標本の椎骨の計測をおこなった。椎体高、椎体関節面の面積を計測し、体重との間に見られるスケーリングパターンを系統間比較した。

アフリカで発見されている化石類人猿の多くは、推定体重に対して小さな腰椎をもっている。この現象の解明は類人猿の運動進化を知る上で重要な鍵の一つである。国内では分析に必要な霊長類骨格を十分に入手が難しく、資料の豊富な海外の研究所を訪れる必要がある。また、こうした研究所における対応者と良好な関係を構築し、標本利用や共同研究の可能性を探ることは、今後の研究の発展に重要である。豊富な霊長類骨格資料をもつ以下の二研究機関を訪れ調査を行うことを目的とした。

 チューリッヒ大学の人類学研究所は通称「シュルツコレクション」とよばれる膨大な霊長類骨格資料を保管している。また、ベルリンの自然史博物館も、タンザニア、マダガスカル、東南アジアなどの地域の霊長類資料を豊富に管理していることで知られている。この理由からこれら2研究機関を選択した。

 アフリカ化石類人猿の多くは、推定体重に対して小さな腰椎をもっている。これがどのような運動適応に関係しているのかを明らかにする目的で、様々な現生霊長類の脊椎骨の計測を行った。腰椎が全て保存されており、かつ、計測可能である標本を対象に、椎体高と頭側関節面の面積を計測した。これらから関節面の面積、腰椎長、体重の間のスケーリング分析を行った。対象とした分類群は、キツネザル類、 ロリス類、旧世界ザル、新世界ザル、ヒト上科で、これら分類群ごとに最小二乗回帰直線を計算し、グループ間比較した。計測個体は約200個体であった。結果は分析途中であるが、旧世界ザルは新世界ザルに比べ大きな椎体を持つが、椎体の長さを考慮すると両者の間の差は存在しない。ロリス亜科が他の原猿に比べ、緩慢な運動に関連して、小さな椎体を持つのではないかと期待されたが、そのような違いは認められなかった。

 また、チューリッヒ大学人類学研究所のPeter Shmid博士、Christoph Zollikoffer博士、ベルリン自然史博物館のRobert Asher博士と今後の研究協力について話し合った。チューリッヒ大学人類学研究所では、定例セミナーで、化石類人猿の進化研究の最前線についての講演を行った。


ベルリン、フンボルト大学

 


チューリッヒ、リマト川河畔