事業報告
HOPE報告18号、2004年10月1日
事業番号18(若手交流)
野生バーバリーマカクの調査地見学、観察・ローマ動物園訪問
報告者:早石 周平 京都大学大学院理学研究科・教務補佐員
期間:2004年8月2日 〜 8月31日
派遣者は、2004年8月3日から16日まで、アフリカ大陸北西に分布するバーバーリーマカクのモロッコ国内の自然生息地を訪ね、観察を行った。現在、バーバーリーマカクはIUCNのレッドリストでVulnerable (VU A1c+2c, C1)に分類され、SITESのAppendix IIに掲載されている。主な自然分布地は、モロッコ王国からアルジェリア共和国にかけて東西方向に伸びるアトラス山脈とモロッコ国内のリフ山脈、アルジェリア国内の北部山岳地帯である。ほとんどの生息地で針葉樹の伐採による撹乱を受け、生息地が分断されている。今回、訪問したモロッコ国内のミドルアトラス地方は、最も広い生息地で、数々の学術研究がなされている。
  (左)バーバーリーマカク、オトナオス (右)針葉樹の樹皮を採食するバーバーリーマカクのオトナオス
訪問時期に観察された採食物は、Cedrus sp.の樹皮、Quercus sp.の未熟堅果、草本類の根であり、石を返して、夏眠中の昆虫を探すような行動も観察した。本種の生息地は、11月から3月にかけて積雪があり、森林は針広混交林である。本種の生態は東日本に生息するニホンザルと似ているのかも知れない。北アフリカの植生の変遷や気候変動とともに、バーバーリーマカクがどのように分布を成立させてきたか、ニホンザルの冷温帯林での分布成立とともに解明に取り組みたい課題である。
18日から20日には、イタリア共和国ローマ市のBorghese公園にあるBioparco(Rome Zooから改名)を訪問した。ここには数種の霊長類が飼育展示されている。ニホンザルとチンパンジーは比較的広い場所で飼育されていた。ニホンザルは、1977年に大分県高崎山から移入され、累代飼育されており、現在の頭数は約40頭である。ここの集団では緯度や気候の違いや、群れ内性比が影響して、出産期と交尾期の始まりが遅くなっていることが報告されており、興味深い。このような変化もあるが、彼らはローマにやってきて、二十余年経つが、相変わらずニホンザル、という印象を持った。
  (左)Bioparcoのニホンザル放飼場 (右)木ぎれをかき分けて、隠れた餌を探すコザル
第20回国際霊長類学会大会は、北イタリアの工業都市、トリノで2004年8月22日から28日まで開催された。シンポジウムを中心としたプログラムで、発表の対象種は大型類人猿が多く、ついでヒヒが多く、派遣者が研究対象にしているマカク類の発表はあまり多くない、という印象を受けた。野生霊長類を対象とした研究発表からは、社会生態学に論点をおきながらも、新たな展開を模索するような方向性が感じられた。今回の大会で、大型類人猿の研究動向を良く理解することができた。また、マカク研究者の方々とコンタクトが得られ、今後の共同研究の可能性も含めて、有益な交流ができた。
(文責:早石 周平)
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