事業報告
HOPE報告2004年11月04日
事業番号12(若手交流)
氏名:金森 朝子
所属:東京工業大学生命理工学研究科 博士課程2年
訪問期間:2004年6月21日〜2004年10月1日
訪問先:マレーシア領ボルネオ島ダナンバレー森林保護地域
研究のタイトル:
ボルネオ島ダナンバレー森林保護地域における野生オランウータンの調査
研究内容:
ボルネオ島マレーシア領サバ州に位置するダナンバレー森林保護地域内にある観光用ロッジ周辺2km2に、野生オランウータンの調査地を新しく設定した。この地域は、調査・観光・環境教育用に保護されているため商業的な伐採がなく、良好な状態で原生林が維持されている。また、現地人は定住不可のため狩猟圧などの人為的影響もない。これまでの予備調査によって、この調査地では、人慣れした野生オランウータンが高密度で生息し、オスの生息数がメスよりも多いという情報を得ていた。今回の目的は、本調査地で野生オランウータンの野外調査を開始するにあたって、トレイルのマーキングなど、調査地の基盤整備を行うとともに、密度推定、個体識別、追跡調査、食物となる果実の収集や分布調査などの基礎調査を行うことである。
2004年7〜9月内の調査期間中に、調査地設定、オランウータンの探索調査、落果果実センサス1回、ネストセンサス1回を行った。7月は、調査地設定として、調査地内にある全トレイルに25m毎に番号を付け、トレイルの方位と距離を測定して地図を作製した。8月より、リサーチアシスタントを伴い探索調査を開始した。直接観察による調査方法は、発見したオランウータンを見失うまで終日追跡し、1分毎の行動とその間の食物を記録した。落果果実センサスは、トランセクト法による落果果実カウント法(Furuichi
et al.,2001)、ネストセンサスは、NC法(Ghiglieri,1984)を用いた。植物の同定とリサーチアシスタントは、ロッジから48km離れた場所にあるDanum
Valley Field Centerに依頼した。
調査結果を報告する。全探索期間132時間52分中(17日間)、全観察時間は71時間29分(9日間)であり、オランウータンの遭遇率は約2
日に一度であった(53.8%)。その間に確認した個体は、オス5頭(フランジを持つオス2頭、フランジを持たないオス3頭)、オトナメス4頭コドモ2頭(2組は親子)の計11頭であった。推定密度は5.5頭/km2となり、オランウータンの生息状況としてはかなりの高密度を示した。7〜9月は果実の豊富な時期であったため、特に観察頻度が高かったと考えられる。さらに特記すべき点は、複数のフランジを持つ成体オスが同じ地域(1km2)を誘動域として利用していたことである。また、識別した個体の性比をみると、オスがメスよりも多いことが予想できる。個体追跡を行なった4個体のActive
Budgetは、休息(38%)、採食(36%)、移動(14%)であり、Lostは7%、観察者に対する威嚇は4%であった。母子間を除く個体間の社会交渉は見られなかった。食物利用に関しては、フルーツが最も多く(48%)、葉(38%)、樹皮(7%)、花(2%)、他(4%)であった。
以上の結果から、本調査地では、オランウータンは比較的人慣れが進んでおり、密度も高く、このような生息状況では、個体間の社会行動がより凝縮した形で観察できる可能性が高いと考えられる。また、直接観察を継続して行うことができるため、行動や採食に関して精度の高い定量的なデータを収集することが可能であると考えられる。
フルーツを採食する成体メス
休息するフランジを持つオス
野生オランウータンの調査地であるダナン・バレー森林保護地域
HOPE Project<>
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