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日:京都大学霊長類研究所 |
先端研究拠点事業HOPE |
独:マックスプランク 進化人類学研究所 |
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人間の本性の進化的基盤を 現生のヒト以外の霊長類との比較や 化石研究で跡づける |
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海外研究拠点での野外調査研究 |
4つの視点 心 |
研究施設での解析研究 |
平成16年2月11日、ドイツ・ミュンヘンのマックスプランク協会にて開催
本日、ここに日本学術振興会とマックスプランク協会との間に先端研究拠点事業に関する覚書が発効したことは、大変喜ばしいことであります。
この先端研究拠点事業は、平成15年度から日本学術振興会が新たに開始した事業であります。この事業は、日本と先進諸国における中核的な研究拠点機関をつなぎ、各学術領域において先端的と認められる分野において、より一層の研究の推進及び将来を担う次世代の若手研究者の交流促進を目的としたものです
「人類の進化の霊長類的起源」は、本事業の第1号プロジェクトであります。本プロジェクトの略称「HOPE」は、単なるアナグラムではなく、21世紀社会における人類にとっての重要な課題である「地球環境との共生」への解決の願いを込めたものであります。プロジェクトの概要等は、後程、日本側コーチェアである京都大学霊長類研究所 松沢哲郎教授からご紹介からありますので、詳細には触れませんが、中核となる共同研究においては、人類の進化を探るために、人間は本来「霊長類」と呼ばれる「サルの仲間」の一種であることを踏まえて、我々の隣人であるサル類に焦点をあてて行うものであります。
なお、日本は、G−8加盟国の中で唯一、霊長類が生息している国であります。また、日本人にとって、サルは非常に親近感のある動物であり、昔話等にもよく登場します。また、日本の古い暦では、各年に十二支という動物をあてはめたものを使いますが、本年2004年は、たまたま「申(さる)年」にあたり、本プロジェクトの開始にふさわしい年ともいえるでしょう。
日本学術振興会の大きな役割の一つは、学術に関する国際交流の促進であり、特定の分野に囚われず、すべての学術分野において活躍される研究者の支援をしております。
このため、ドイツとの交流においては、自然科学分野だけではなく、人文・社会科学分野を含めたより均衡のとれた交流を促進して参りたいと考えております。
マックスプランク本部並び研究所と、日本の大学を始めとする学術研究機関との間により活発な交流が展開されることを期待するともに、日本学術振興会が、その一端をお手伝いできる機会があればと考えております。
最後に、改めて、昨年8月に開催された日独首脳会談の合意を受けて、このHOPEプロジェクトを皮切りに、新たな学術交流の道が様々に開かれていくことを希望いたします。
第1回HOPE国際シンポジウムに、京都大学総長・尾池和夫先生、日本学術振興会理事長・小野元之先生のご臨席を賜りましたことを、まず厚く御礼申し上げます。開会にあたり、京都大学霊長類研究所・所長として、一言ご挨拶申し上げます。
本研究所は1967年に設立されました。爾来、37年間にわたって、霊長類の多様な側面に焦点をあてた基礎科学的な研究をおこなってまいりました。このたびマックスプランク進化人類学研究所と「人間の進化の霊長類的起源」に関する共同研究プロジェクトを実施する機会を得ましたことは、本研究所にとってたいへんよろこばしいことであります。HOPEプロジェクトは、日本学術振興会が開始した先端研究拠点事業の第1号に選ばれました。こうした国際的な研究拠点間の連携をめざすプロジェクトに参加できましたことをたいへん光栄に存じます。それと同時に、本研究プロジェクトを成功裡に導くべき大きな責任を自覚するところでもあります。
マックスプランク進化人類学研究所は、今日、世界的にみて、霊長類学ならびに進化人類学といった研究分野で最も著名な研究所のひとつです。ごく最近、2004年2月に、われわれはライプチッヒのマックスプランク進化人類学研究所を訪問しました。そのすばらしい研究施設と、優れた研究状況に、深い感銘をおぼえたところです。この2つの研究所のあいだの新しい協力関係が、霊長類学ならびに進化人類学といった研究分野で、多くの新しい発見をもたらし、学術研究を一層発展させることを期待しています。また本プロジェクトを通じて、この分野での日独の学術交流が今後ますます盛んになりますことを祈念してやみません。
このような機会を賜りました日本学術振興会、マックスプランク協会、ならびにご関係の皆様方に、衷心より御礼申し上げます。本プログラムをご支援くださいます京都大学に対しましても、深い感謝の意を捧げたいと思います。本日とりおこなわれますシンポジウムが皮切りとなって、HOPEプロジェクトがすばらしい一歩を踏み出すよう、切に望むところです。 ご静聴ありがとうございました。
* これは、2004年3月6日、京都大学で開催された、第1回HOPE国際ワークショップ「進化の隣人―遺伝子から心までー」の冒頭おこなわれた、茂原信生所長による英語スピーチの翻訳です。
京都大学総長・尾池和夫
日本学術振興会(JSPS)によって支援された「先端研究拠点事業」HOPEの第1回国際ワークショップに参加できて光栄です。京都大学のシンボルである、「時計台百周年記念ホール」にみなさんをお迎えすることができました。本学総長として、たいへん喜ばしいことです。
京都大学は1897年に設立されました。日本で2番めに古い国立大学です。本学は、15の大学院、10の学部、12の研究所、その他に21のセンターがある、総合大学です。過去100年以上に及ぶその歴史を通じて、京都大学は、さまざまな学問分野において、科学的発見や学術的活動の面できわめて秀でているという高い評価を得てきました。とりわけ「フィールドワーク(野外研究)」は、京都大学のユニークな特徴のうちの1つです。そして霊長類研究所は、そうした野外に基盤をおく学問である「フィールドサイエンス(野外科学)」の重要な中心だといえます。
日本は、霊長類に関する研究において、明らかに有利な点があります。なぜなら、北アメリカやヨーロッパには、サルや類人猿はいないからです。一方、日本には、ニホンザルという土着の種がいます。こうしたわが国固有の自然環境に恵まれて、日本の霊長類学は、人間以外の霊長類についての科学的研究において、多大な貢献を果たしてきました。人間の本性の進化的起源を、さまざまな側面から明らかにしてきました。
故今西錦司は、日本の霊長類学の精神的な父と見なすことができます。今西が京都大学の講師だった1948年に、野生のニホンザルに関する研究を始めました。一緒に始めたのは当時の学部学生たちです。伊谷純一郎、川村俊蔵、河合雅雄といった人々ですが、後年いずれも本学の教授となり、この新しい学問の発展の大きな礎となりました。1953年に最初に見つかった、有名な「幸島のサルの芋洗い」行動は、ヒト以外の動物がおこなう文化的行動として、今日もなお広く知られています。
野生ニホンザルに関する研究を10年にわたって蓄積したのち、1958年に、今西と伊谷は初めてアフリカへ行きました。野生のアフリカ型大型類人猿のフィールドワークを開始するためです。それは、高名なジェーン・グドールが野生チンパンジーの研究を始めるためにアフリカに到着する2年前のことでした。今西および彼を慕って集まってきた学生たちのこうしたパイオニアワークは、1967年に、霊長類研究所の設立として実を結びました。わが国のみならず、国際的な、霊長類研究の拠点となる施設です。
先駆的なフィールドワークが、なぜ京都大学で始まったのでしょうか。そのルーツは、「自由と独立を尊ぶ精神」という、本学の伝統の中でも際立った特徴に由来しているのかもしれません。そして、この自由と独立を尊ぶ精神は、京都大学の地そのものと無縁ではないでしょう。京都は、約1,200年もの間、この国の都でした。そして現在の首都である東京から、約500km離れたところに位置して、ある種の独立を保持し続けています。京都大学は、その設立以来、文化的にも哲学的にもユニークな伝統を涵養してきました。
自由と独立を尊ぶ精神は、今日の学術や研究にも深く織り込まれています。本学の研究者たちは、学問の自由という精神のもと、きわめて独創的な研究を追い求めています。事実、多くの学術分野で、世界的にも顕著な業績を産み出してきました。
HOPEプロジェクトは、京都大学霊長類研究所とマックス・プランク進化人類学研究所の共同事業であり、人間の進化の霊長類的起源を明確にすることを目標としています。そうした研究は、まさに京都大学で始まったものです。そして、その先駆者たちの精神を受け継ぐ人々が、その歩みを止めることなく、ヒトを含めた霊長類の科学的理解を一層推し進めてきました。その歴史は、すでに50年を超えるものになっています。
わたくしは、HOPEプロジェクトが、京都大学のパイオニアワークの歴史に新たな1ページを書き加えられることを切望します。結びに当たって、松沢教授ならびに特に次代を担う若い科学者の皆様に、ひとつお願いしたいことがあります。「われわれ人間はどこからきたのか」。この問いに対する明快な解答を、ぜひこの日独共同事業を通じて人類にもたらしていただきたいと思います。ご静聴ありがとうございました。
* これは、2004年3月6日、京都大学で開催された、第1回HOPE国際ワークショップ「進化の隣人―遺伝子から心までー」の冒頭おこなわれた、尾池和夫総長による英語スピーチの翻訳です。
人間の心も体も社会も、進化の産物である。「われわれはどこから来たのか」「人間の本性とは何か」、そうした根源的な問いに答えるためには、人間がどのように進化してきたのかを知る必要がある。生物としての人間は、脊椎動物の一種であり、哺乳類の一種であり、その中でも「霊長類」と呼ばれる「サルの仲間」の一種である。では人間は、他のサル類と何が同じでどこが違うのか。本プロジェクトHOPEは、人間と最も近縁な人間以外の霊長類に焦点をあてて、人間の進化の霊長類的起源(Primate Origins of Human Evolution)を探ることを目的としている。HOPEは、その英文題目のアナグラム(頭文字を並べ替えたもの)であると同時に、野生保全への願いも込められている。人間を除くすべての霊長類は、いわゆるワシントン条約で「絶滅危惧種」に指定されている。先端的な科学研究を展開すると同時に、「進化の隣人」ともいえるサル類をシンボルとして、地球環境全体ないし生物多様性の保全に向けた努力が今こそ必要だろう。
日本は、先進諸国の中で唯一サルがすむ国である。そうした自然・文化の背景を活かし、霊長類の研究では、世界に先駆けてユニークな成果をあげ発信してきた。今西錦司(1902-1992)ら京都大学の研究者が野生ニホンザルの社会の研究を始めたのは1948年である。京都大学霊長類研究所(KUPRI)<愛知県犬山市、茂原信生所長>が幸島で継続しているサルの研究は、すでに55年が経過し、8世代にわたる「サルの国の歴史」が紡ぎだされている。さらに1958年に開始したアフリカでの野生大型類人猿調査を継承し、国内外でチンパンジーの研究を発展させてきた。また、日本が創始した英文学術雑誌「プリマーテス」は、2003年からはドイツのシュプリンガー社から出版されるようになったが、現存する世界で最も古い霊長類学の学術誌である。一方、ドイツは、霊長類研究において、ウォルフガング・ケーラー(1887-1967)によるチンパンジーの知性に関する研究をはじめ長い伝統を有している。とくに、1997年にマックスプランク進化人類学研究所(MPIEVA)が創設され、類人猿を主たる対象にして人間の進化的理解をめざす「進化人類学」的研究が急速に興隆し、この分野における西洋の研究拠点になっている。
HOPEプロジェクトは、日本学術振興会(JSPS)<小野元之理事長>とマックスプランク協会(MPG)<ピーター・グルス会長>の支援のもとにおこなわれる先端研究拠点事業である。HOPEプログラムは、KUPRIとMPIEVAを日独の拠点研究機関としてその研究協力を推進する。コーチェアーは、日本側が松沢哲郎、ドイツ側がマイケル・トマセロである。それぞれの国の中核的な研究拠点とそれに協力する共同研究者が、ヒトを含めた霊長類を対象に、その心と体と社会と、さらにその基盤にあるゲノムについて研究するものである。「人間はどこから来たのか」「人間とは何か」という究極的な問いに対する答えを探す学際的な共同作業である。それこそが、「人間はどこへ行くのか」という、現代社会が抱える諸問題に対する生物学的な指針を与えることになるだろう。
KUPRIは、野生チンパンジーや野生ニホンザルの長期研究基地、さらにチンパンジーやニホンザルなど飼育霊長類20種を有し、4部門2施設からなる多様な霊長類研究をすすめてきた。一方、MPIEVAは、チンパンジー・ボノボ・ゴリラなどの野生類人猿の長期研究基地と、飼育類人猿の施設であるケーラー記念霊長類センターを有している。また、野生類人猿生態学、認知発達科学だけでなく、霊長類の比較ゲノム科学の領域で、多大な成果をあげてきた。こうした相補的な性格をもつ2つの研究拠点の国際的な協力のもと、霊長類に関する多様な研究分野が相互交流によってさらに活性化し、「人間の進化の霊長類的起源」に関する新たな知見の蓄積と研究領域の創造をめざす。
そのために、生息地での野生霊長類の野外研究を含めた共同研究の実施、若手研究者の交流と育成、国際ワークショップ・シンポジウム等の開催をおこなう。また、インターネットサイトならびにデータベースの充実や、出版活動(とくに英文書籍による研究成果の出版シリーズの発足)を通じて、その研究成果の普及・啓発に努める。
具体的な実行計画としては以下のものを計画している。2004年、まず2月にマックスプランク進化人類学研究所で共同事業の指針と具体的計画を定める。その後、「チンパンジー・ゲノム・プロジェクト」、「人間の言語の進化的起源」、「類人猿と病気」、「採食生態」「道具的知性の進化」、「大型類人猿の研究・飼育・自然保護」に関するワークショップをおこなう。2005年には、HUGO(ヒトゲノム機構)が主催するヒトゲノムの国際会議のサテライトとして「霊長類比較ゲノム」のワークショップを開催する。こうした交流と平行して、共同研究の実をあげるために、若手の研究者とくにポスドクと大学院生等の派遣をおこなう。とくに、相手機関であるマックスプランク進化人類学研究所のもつユニークな特色を生かして、人間の進化を考える上で重要な「認知と言語の個体発達過程」「野生大型類人猿の生態」「霊長類の比較ゲノム研究」の3つの先端的な研究分野での若手交流を推進する。さらに、日独だけの協力ではカバーしえない重要な研究分野として「化石研究」と「野生保全・動物福祉」研究に焦点をあて、この分野で先端的な研究をしているアメリカの研究機関との協力関係の確立をめざす。そうした多国間の先端的研究協力を推進して、人間の心と体と社会とゲノムについて、その進化の霊長類的起源の解明に向けた努力を重ねたい。
京都大学霊長類研究所 松沢哲郎
HOPE事業推進委員会
平成15年度、松沢哲郎、茂原信生、竹中修、上原重男、松林清明、渡辺邦夫
平成16年度、松沢哲郎、茂原信生、竹中修、マイケル・ハフマン、景山節
平成17年度、松沢哲郎、茂原信生、林基治、マイケル・ハフマン、景山節、橋本千絵、平井啓久、遠藤秀紀
平成18年度、松沢哲郎、林基治、マイケル・ハフマン、景山節、橋本千絵、平井啓久、
遠藤秀紀、松井智子
18-20年度の事業推進委員会委員長は、遠藤秀紀が担当します。
事務担当委員:井山有三事務長
拠点内協力者
本研究所の教員
拠点外協力者
「心」研究班:長谷川寿一(東大)、藤田和生(京大・文)、入来篤史(東京医科歯科大)
「身体」研究班:諏訪元(東大)、中務真人(京大・理)
「社会」研究班:山極寿一(京大・理)、山越言(京大・アジア・アフリカ地域研究研究科)
「ゲノム」研究班:藤山秋佐夫(情報学研究所)、斉藤成也(遺伝学研究所)、村山美穂(岐阜大)
ドイツ、マックスプランク進化人類学研究所(平成15年度発足)
Max Plank Instittute for Evolutionary Anthropology (MPIEVA)
Michael Tomasello, Department of Developmental and Comparative
Psychology
Christophe Boesch, Department of Primatology
Svante Paabo, Department of Evolutionary Genetics
Jean-Jacques Hublin, Department of Human Evolution
アメリカ、ハーバード大学人類学部(平成16年度発足)
Deapartment of Anthropology, Harvard University
Richard Wrangham, Primatology
Daniel Lieberman, Skeletal Biology
Marc Hauser, Primate Cognition
David Pilbeam, Paleoanthropology
イタリア、認知科学技術研究所(平成18年度発足予定)
Institute for Science and Technology of Cognition
ISTC-Consiglio Nazionale delle Ricerche (CNR)
Elisabetta Visalberghi
Giovanna Spinozzi
Patrizia Poti
Giacomo Rizzolatti (Parma University, Istituto di Fisiologia Umana)
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